1 変数変換の証明
1.1 イントロダクション
Rd にはd次元ルベーグ測度が既に与えられているものとする。これを作
る話はまた別の機会に譲ることにする。積分についての話もまた今度にする。
可測関数としては、±∞の値を取らないものを考える。
さて、積分の変数変換の証明はいろいろあるが、ここではいくつかの補題
に基づき面積定理から証明する方法を取る。これはルベーグ積分特有の、可
測集合、単関数、非負可測関数という流れに沿っていてとても見やすい。証
明した後は、極座標変換を用いて単位球の体積を計算してみたい。
それでは証明に移る。まず、何を証明するのかを明確にする。
1.2 面積定理
次の定理が目標である。
定理1.1. (面積定理)
U ⊂Rdは開集合とし、φ:U →RdはC1級とし、A⊂Uはルベーグ可測
であるとする。さらにφは次の条件:
∀y ∈ Rd |φ−1({y})| < +∞
を満たすとする(y=φ(x)となるxはyに対して有限個)。このとき、
Φ(A)(y) := |A∩φ−1({y})|
とおく。各Aに対してこういう関数があると。このとき、
∫
∫
J(φ)(x)dx =
A
φ(U)
Φ(A)(y)dy. (J(φ)(x) = |Dφ(x)|)
特にφが単射ならばΦ(A)=χφ(A)となり、
∫
J(φ)(x)dx = m(φ(A)).
A
J(φ)(x) は面積の変化率をあらわしている。
これを示すのに必要な補題は適宜与えられる。証明はすべて後半に回す
1.3 予備的考察
まずΦ(A)の考察から。Φ(A)(y)とは、要するにy=φ(x)となるx∈Aの
個数なので、次のことはすぐ分かる。
1. A ⊂B =⇒ Φ(A)≤Φ(B).
2. A∩B =ϕ =⇒ Φ(A+B)=Φ(A)+Φ(B).
3. An ↑ A⊂U =⇒ Φ(An)↑Φ(A).
たとえば3つ目に関しては、nが充分大きければy=φ(x), x∈Aという
すべてのxは途中からずっと同じAnに入るということ。
ということで、A⊂U(可測)について、
∫
I1(A) =
J(φ)(x)dx,
A
I2(A) =
とおくとき、i=1,2として次が成り立つ。
1. A ⊂B⊂U =⇒ Ii(A)≤Ii(B).
∫
φ(U)
2. A∩B =ϕ =⇒ Ii(A+B)=Ii(A)+Ii(B).
3. An ↑ A⊂U =⇒ Ii(An)↑Ii(A).
Φ(A)(y)dy
だから、I1 =I2を示そうというとき、示すにはA+B=Cならば各A,B
について示せばよいし、An↑Aならば各Anについて示せばよい。
さて、
V ={x∈U |J(φ)(x) >0}
とおく。この開集合は重要な役割を演ずる。まず、
A=A′+A′′, A′ ⊂V, A′′ ⊂U −V
と分ける。先にA′′について示すことになる。その後、V に対し、
Kn ↑V, Knはコンパクト
という列を取ったうえで(このことはいつか示す)、
An := A′ ∩Kn, An ↑A′
と分解する。これらのAnは、可測で、
An ⊂V,
An はコンパクト
という性質を持つから、これらすべてでI1=I2をいえばOK.したがって、
• (第1段階)A⊂U−V としてI1(A)=I2(A).
• (第2段階)A⊂V, AはコンパクトとしてI1(A)=I2(A).
この2つに分けることになる。
1.4 第1段階:サードの定理
まずこの第1段階から処理する。次の補題を使う。
補題1.2. (サードの定理)
U ⊂Rdは開集合とし、φ:U →RdはC1級とし、
C(φ) = {x ∈U | J(φ)(x) = 0}
とおく。このとき、m(φ(C(φ)))=0.
これによると、A⊂U−V =C(φ)のとき、m(φ(A))=0.
Φ(A)(y) > 0 ⇐⇒ y ∈φ(A)
なので、このときΦ(A)(y)はほとんど至る所0で、
∫
I2(A) =
Φ(A)(y)dy = 0.
φ(U)
他方、A上J(φ)(x)=0であるから、
∫
I1(A) =
J(φ)(x)dx = 0.
A
1.5 第2段階の準備1:全単射性の追加
第2段階は手間がかかるのでいくつか補題などを用意する。結論から言う
と、条件を増やす。すなわち、次のようにする:
A⊂W, W上でφは単射かつJ(φ)(x)>0
という開集合W(⊂V)が取れるようなAに限るのである
それには次の補題が活躍する:
補題1.3. (局所全単射定理)
U,V ⊂Rdは開集合、φ:U →V はC1級とし、
J(φ)(x) > 0 (x ∈ U)
とする。このとき、a∈U, φ(a)=b∈V とすれば、
a ∈U0 ⊂U, b∈V0 ⊂V
という開集合U0,V0をうまくとってφ:U0 →V0が同相写像となるようにで
きる。このとき逆写像もC1級である。
このU0は、これに含まれる別の開集合でも代用できる。(小さく取れる!)
ということで、Aの各点xに対し、
x ∈U(x,ϵx) ⊂ V, U(x,ϵx)の上で局所全単射
というϵx >0を取って、コンパクト性で、
A⊂U(x1, ϵ1
2 )∪···∪U(xp, ϵp
2 ) (ϵi = ϵxi
)
とする。さらにRdを半開区間分割する。
{ d ∏
[
∆n :=
i=1
)
ki
2n, ki +1
2n
}
| ki ∈ Z
あれは直径。R∈∆nである。これにより、
∆n ={R(n)
.
∞
∑
k }∞
k=1, A =
k=1
diam(R) =
√
d·2−n.
(A∩R(n)
と分割する。Aは有界なので実際は有限和である。
k )
nを充分大きくとれば、Aと交わるRの点xについて、xとRの点との距
離はどんなϵi/2よりも小さくなる。そこで1つ固定し、
x ∈U(xi, ϵi
2 ),
||x − xi|| < ϵi
2
とすれば、一般のy∈A∩Rについて、
||y − x|| < ϵi
2 , ||y −xi|| < ϵi. ∴ A∩R ⊂ U(xi,ϵi).
このようになる。
だから次のようにする。まずnが充分大きいとき、Aは有限個の
A∩R, R∈∆n
の直和であって、これらは次を満たすある開集合に入っている:
A∩R⊂W, W上でφは単射かつJ(φ)(x)>0.
これらのA∩Rに対して、
I1(A ∩R) = I2(A∩R)
が言えれば、辺々足し合わせて
I1(A) = I2(A)
が言える。
1.6 第2段階の準備2:BMD補題
というわけで、Aは次のような状況にある。開集合V があり、
A⊂V ⊂U, V 上でφは単射かつJ(φ)(x)>0.
示すことは、
I1(A) =
∫
A
J(φ)(x)dx,
I2(A) =
∫
φ(U)
Φ(A)(y)dy の一致。
しかしA上でφは単射だから、y∈φ(A)に対してy=φ(x)というxは1つ
だけ。つまりΦ(A)=χφ(A)になる。だから、
∫
J(φ)(x)dx = m(φ(A))
A
を示せばよい。
これを示すための補題を用意する。それがBMD補題。
t−2dm(φ(B)) ≤
をいえばよい。
B
1.7 第2段階:2つの不等式
J(φ)(x)dx ≤ t2dm(φ(B))
これを示すには、次の二つの不等式を示せばよい。B⊂Bj.
∫
(1) : t−d|detMj|m(B) ≤
J(φ)(x)dx ≤ td|detMj|m(B).
B
(2) : t−d|detMj|m(B) ≤ m(φ(B)) ≤ td|detMj|m(B).
1.7.1 (1)の証明:行列式の不等式
まず1つ目。t−1,tを中に入れて、
∀x ∈ B, ∀v ∈Rd, ||(t−1Mj)v|| ≤ ||Dφ(x)v|| ≤ ||(tMj)v||
と書く。それ自身興味深い次の補題を示そう。
L,M はd次正則行列、∀v∈Rd ||Lv||≤||Mv|| =⇒ |detL|≤|detM|.
これは、すべてのvという代わりにすべてのM−1vを考えるのである。
||(LM−1)v|| ≤ ||v||.
これは、単位閉球B(0,1)について、
(LM−1)(B(0,1)) ⊂ B(0,1)
を示す。これより、
|det(LM−1)|m(B(0,1)) = m((LM−1)(B(0,1))) ≤ m(B(0,1))
だから、
|detL||detM|−1 ≤ 1.
(固有値を使った別証明もある)
∴ |detL| ≤ |detM|.
これより、次の式が成り立ち、後はB上で辺々積分すればよい。
|det(t−1Mj)| ≤ |det(Dφ(x))| ≤ |det(tMj)|
1.7.2 (2)の証明:リプシッツ定理
もう1つの不等式はリプシッツ定理から示す。次の補題である。
補題1.5. (リプシッツ定理)
U ⊂Rdは開とし、φ:U →RdはC1級とする。もし、
∀x,y ∈ U ||φ(x)−φ(y)|| ≤ C||x−y||
を満たすC≥0があるならば、A⊂Uが可測のときφ(A)も可測で、
m(φ(A)) ≤ Cdm(A).
これを利用して2つ目を示す。まず、B⊂Bj⊂Djから、
∀x,y ∈ Dj t−1||Mjx−Mjy|| ≤ ||φ(x)−φ(y)|| ≤ t||Mjx−Mjy||.
がBでも成り立つ。φはDj上の同相写像、Mjも然り。だから、
φ : Dj →φ(Dj), Mj :Dj →MjDj
は同相、φ(Dj), MjDj も開集合。これを用いて、
{ ||Mjφ−1(x′) −Mjφ−1(y′)|| ≤ t|x′ −y′|||, (x′,y′ ∈ φ(Dj))
||φM−1
j (x′′) −φM−1
j (y′′)|| ≤ t||x′′ − y′′|| (x′′,y′′ ∈ MjDj)
とできる。つまりこの2つは共にリプシッツ連続で、定理が使える。Aとし
てはそれぞれφ(B)及びMjBを使うと、
m(Mjφ−1(φ(B))) ≤ tdm(φ(B)), m(φM−1
j (MjB)) ≤tdm(MjB).
後はルベーグ測度の性質で行列式を出せば、
|detMj|m(B) ≤ tdm(φ(B)), m(φ(B)) ≤ td|detMj|m(B).
これで示された。証明終わり。
ちなみに、次のことは自明として用いている。
定理1.6. (正則行列の変換)
Mがd次正則行列のとき、A⊂Rdが可測ならMAも可測で、
m(MA)=|detM|m(A)
1.8 変数変換1(非負可測関数)
それでは変数変換の本番に入る。まず非負可測関数から。
定理1.7. (変数変換1)
U ⊂Rdは開集合で、φ:U →RdはC1級で、f :U →Rはルベーグ非負
可測関数とする。すなわちf ≥0.そしてφは、
∀y ∈ Rd |φ−1({y})| < ∞
だとする。このとき、
∑
Φ(f)(y) :=
x∈U, y=φ(x)
とおくとこれはφ(U)上ルベーグ可測で、
∫
∫
f(x)J(φ)(x)dx =
U
φ(U)
f(x)
Φ(f)(y)dy.
とくにφが単射ならφ(U)上でΦ(f)=f◦φ−1であり、
∫
∫
f(x)J(φ)(x)dx =
U
証明.
φ(U)
f ◦φ−1(y)dy.
f · J(φ)はもちろんU 上非負可測。さて、Φ(f)(y)はyが固定されている
とき、単に然るべき有限個のxに対するfの値の和である:
Φ(f)(y) = f(x1) +···+f(xm).
よって次のことは明らか。
• Φ(af +bg) = aΦ(f)+bΦ(g). (a,b ≥ 0, f,g ≥ 0.)
• fn ↑f =⇒ Φ(fn)↑Φ(f).
さらにA⊂Uは可測とするとき、定義関数について、
∑
Φ(χA)(y) =
χA(x) = |A∩φ−1({y})| = Φ(A)(y).
x∈U, y=φ(x)
これが成り立つ。そこで、U上の非負可測関数fに対し、
I1(f) :=
U
とおく。このとき明らかにi=1,2について、
∫
f(x)J(φ)(x)dx,
I2(f) :=
φ(U)
Φ(f)(y)dy
• Ii(af +bg) = aIi(f)+bIi(g). (a,b ≥ 0, f,g ≥ 0.)
• fn ↑f =⇒ Ii(fn)↑Ii(f).
がレヴィの定理などから従う。そこでステア近似定理の出番。ステアとは、
c1χA1
+··· +ckχAk
(ci ∈ R, m(Ai) < +∞)
という単関数で、さらにAi∩Aj =ϕ(i=j)となっているもののこと。非負
可測関数は非負ステアの増加列で書けるから、結局示すのは非負ステアに対
しての一致、もっというと定義関数に対しての一致となる。しかしそれは、
∫
∫
I1(χA) =
J(φ)(x)dx,
A
I2(χA) =
φ(U)
Φ(A)(y)dy
となる。Φ(χA)=Φ(A)だから。この一致は面積定理から従う。
1.9 変数変換2(一般の積分)
これで完成する。
定理1.8. (変数変換2)
U ⊂Rdは開集合、φ:U →RdはC1級の単射で、U上でJ(φ)(x)>0な
るものとする。さらにA⊂Rdは可測集合で、
φ(U) ⊂ A, m(A−φ(U))=0
なるとし、可測関数f :A→Rが与えられているとする。更にf◦φもU上
可測だとする。このとき、
(f ◦φ)J(φ)がU 上積分確定 ⇐⇒ fがA上積分確定
であり、一方の積分が確定であれば、
∫
U
(f ◦φ)(x)J(φ)(x)dx =
これが一般の変数変換である。
証明.
まず、f±を考えるのが基本になる。
f+(y) = |f(y)| +f(y)
2
であり、したがって
,
f−(y) = |f(y)| −f(y)
2
(f ◦φ)+(y) = (f+ ◦φ)(y), (f ◦φ)−(y) = (f− ◦φ)(y).
さらにφは単射なので、
Φ(f± ◦φ) = (f± ◦φ)◦φ−1 = f±.
よって、先程の定理から
∫
U
(f± ◦φ)(x)J(φ)(x)dx =
∫
φ(U)
f±(y)dy
となることとJ(φ)(x)≥0などと合わせて、プラスとマイナスの一致が従う。
よって積分の確定性も一致するし、確定したときの積分の一致も成り立つ。
最後に、m(A−φ(U))=0なので積分範囲をAにすれば完成する。
2 変数変換の応用
実際に積分してみる。その前に準備。
2.1 積分定理の復習
定理2.1. (ルベーグの収束定理)
A⊂Rdは可測とし、fn,s:A→Rは可測(n≥1)とする。s(x)がA上の
非負可積分関数で、
|fn(x)| ≤ s(x) (n ≥ 1, x ∈ A)
であるなら、A上でfn→f (n→∞)であるときfはA上可積分で、
∫
∫
lim
n→∞
fn(x)dx =
A
f(x)dx.
A
これに平均値の定理を応用して、微分積分の基本定理を得る。
定理2.2. (微分積分の基本定理)
f : [a,b] → Rは連続、(a,b)上微分でき、f′は(a,b)上で有界とする。
|f′(x)| ≤ M. (a < x < b)
さらに、
f′(a + 0) = lim
h→+0
f(a +h)−f(a)
h
,
f′(b − 0) = lim
が存在して有限とすれば、f′は(a,b)上可積分で、
∫
f′(x)dx = f(b) −f(a).
(a,b)
証明.
まずf を、
f(x) =
h→+0
f(b) −f(b−h)
h
f(a) +f′(a +0)(x−a) (a−1 ≤ x ≤ a)
f(x)
(a ≤ x≤b)
f(b) +f′(b −0)(x−b) (b ≤ x ≤ b+1)
と拡張してfが(a−1,b+1)で微分できるようにしておく。f′は(a,b)の上
で一致する。
f′ に収束する関数列を取る。
(
fn(x) := 2n
f(x + 1
2n)−f(x)
)
(n ≥1)
は(a,b)上でn→∞したときf′に収束する。拡張によりf′は(a−1,b+1)
で有界となっている。そこで、
|f′(x)| ≤ M′ (a−1 < x <b+1)
とすれば平均値の定理で
|fn(x)| ≤ M′. (a < x < b)
これよりルベーグ収束定理で
∫
lim
n→∞
(a,b)
∫
fn(x)dx =
15
f′(x)dx
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